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34話 恋人よりも甘く

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-11 06:12:38

「おぉ……焼けてきたわね」

波風ちゃんが串をひっくり返し焦げ目のついた肉と野菜を表に出す。その他にもソーセージやとうもろこしなどもあり香ばしい匂いが鼻を刺激する。

「ほら高嶺。これ食べる?」

「うん!」

焼けてきた串を取ってくれて手渡してくれるので、早速肉と野菜を同時に口の中に放り込み咀嚼する。

肉の油を野菜の食感が抑えてくれて、肉厚で柔らかいものが口の中で溶けていく。

「ほら蛇ちゃん食べるー?」

健さんが焼く前の肉をナイフで少し切り、それを割り箸で掴み捕らえた蛇の前に持っていく。

「おぉー美味そうに食うな。案外可愛いなお前」

蛇は肉を飲み込みお礼を言うように舌をチロチロと出す。

「あれ……? 高嶺に波風じゃないか? 見たところ家族でキャンプかい?」

「あれ……橙子さん? 予定があるんじゃ……」

焼きとうもろこしに齧り付いているとここに来られなかったはずの橙子さんが駐車場の方から来る。

「予定が空いたとかじゃないの?」

「いや残念ながらキャンプには参加できないよ。ここに来たのは社会見学の一環といったところかな」

橙子さんの後ろの方には作業服を着て頭にヘッドライト付きのヘルメットを被った大人が数人居る。

「何かあったんですか?」

「うちの会社がここら辺の地質調査をしていてね。でもその機材が何者かに壊されていたらしいんだ。普通の生き物ではありえない大きな力でね」

「まさか……」

直接的な言葉はここでは出せないが三人とも考えることは一緒だ。

[イクテュスの仕業?]

[いやまだ分からない……野生生物の可能性もあるしね。これから調べるさ。一応熊とかの可能性もあるから気をつけてくれ]

「じゃあわたしはこれで。まぁ夜の山はそもそも危険だし君達は入らないようにね」

「はいその……橙子さんも気をつけてください!」

「もちろん。君達は心配せずキャンプを楽しんでくれたまえ」

橙子さんは不敵な笑みを浮かべつつ振り返り大人達の方へ去っていく。そして彼らは山の中に入っていき調査とやらを始める。

「今の子がその……先輩のアレかい?」

健さんがソーセージを咥えながらも言葉を選びこちらだけに意図を伝える。

「そうだよ。"高貴"な人だね」

「なるほどね。彼女からも色々話聞けそうだけど、良さそうかい?」

「やめといた方が
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